当学会について

理事長挨拶

近年の医学の進歩は著しいものです。テレビ・新聞・週刊誌・一般科学雑誌・インターネット等において、医学・医療情報に関する多くの情報が氾濫しています。しかし、患者さんのみならず、ほとんどの国民にとって正しく理解することは大変難しいことです。ましてや専門的知識を持たない患者さんやご家族、そして国民の方々にはその真偽について判断することは不可能です。

最近、某ネットにて問題が発生して削除されたくらいです。
医療行為は、提供する医師と医療を受ける医療消費者である患者さんのコミュニケーションに基づく信頼関係は不可欠です。20世紀後半から、古代ギリシャから続いた医師と患者の考え方は根本的に変わりつつあります。これまで医師は患者のために最善を尽くし、「知らしむべからず、由(よ)らしむべし、」とされていました。しかし、患者・国民は病気について、医師の説明を受け、自ら考え、意思決定すること(自己決定権、インフォームド・コンセント、インフォームド・チョイス)が求められるようになりました。

人間社会において送り手と受け手は主に対話をとしてコミュニケーションが構築されますが、医師と患者のコミュニケーションはなぜ特殊なのでしょうか。2つの理由があります。第1は「医学の不確実性」です。医学は日進月歩していますが、その不確実性もまた増えています。第2は「情報の非対称性」です。不確実性の高い難解な専門的知識は医師が独占していることです。そのため、一般の人が医師の話す難解な医学専門用語を正しく理解することは極めて困難なことであり、医師もまた、一般の人に説明することは非常に難しいことなのです。

この問題を解決するために、独立行政法人国立国語研究所「病院の言葉」委員会は大規模調査と統計処理により、重要用語57語を厳選し、2009年に「病院の言葉を分かりやすく—工夫の提案」を発行しました。しかし、その後、政権交代により、その事業は中止となりました。われわれは、その趣旨を継ぎ、患者が正しく理解できる医療用語集を作成することを目的に研究会を立ち上げました。本学会は、さらに患者・国民のためのコミュニケーション学の研究と実践により、21世紀における患者—医師の信頼関係を構築し、真の患者中心の医療を確立したいと考えています。

理事長 笠貫 宏

市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会とは

人間は一生の中で、4つの苦悩(生まれること、老いること、病むこと、死ぬこと)を避けることはできません。これらの苦悩を解決するための学問が医学であり、医学を社会に適応するのが医療です。医学は20世紀に入り日進月歩といわれるほど急速な進歩を遂げ、人類に多大な福音をもたらすとともに、薬害など不幸をもたらしました。

古代ギリシャからの医師と患者の関係は今大きく変わろうとしています。これまで、医師はヒポクラテスの誓いを医の原点として学び、守ってきました。その内容は「医師は患者のために最善を尽くすこと」であり、その医療内容は医師にゆだねるという「知らしむべからず、由らしむべし」というものです。しかし、第二次世界大戦中に行われたナチスの非人道的行為に対してニュールンベルグ裁判が行われ、1964年、世界医師会で、『ヘルシンキ宣言』が採択され、1975年の東京総会において、インフォームド・コンセント(説明と同意)が不可欠であると宣言されました。

また1960年代後半になると、世界的公民権運動の高まりの中、アメリカを中心に医療における患者の人権擁護の立場から、医の倫理として患者の自己決定権 とインフォームド・コンセントの尊重が重視されるようになりました。この考えは、1980年代後半頃からわが国にも波及浸透し、社会に定着してきています。わが国では1997年の『医療法』の改正により、インフォームド・コンセントが医療法上の医師の努力義務として明記されました。患者・国民は病気について、自ら学び、考え、判断し、意思決定することが求められています。

そして、医師や看護師など医療者側は、患者コミュニケーション学の研究と教育が進み、日常診療においてよりよきコミュニケーションを実践しています。しかし、医療消費者である患者の意識調査では、患者は薬や手術など治療について積極的に関心を持ちながら、コミュニケーション不足の訴えが多く、両者には、大きなギャップが存在しています。
それが、「信頼関係」と「患者満足度」の阻害因子になっています。

人間社会において、コミュニケーションは不可欠です。人と人とのつながりは対話(言語コミュニケーション)や態度や表情など(非言語コミュニケーション)によって成り立ちます。しかし、医師と患者のコミュニケーションには大きな特殊性があります。その理由の第1は「医学の不確実性」です。第2は「情報の非対称性」です。不確実性の高い難解な専門的知識は医師が独占し、医療消費者である患者が正しく理解することはほとんど不可能に近いのです。

その課題解決のためには、患者・国民のための分かりやすい医療言葉の作成や患者の医療リテラシー(情報や知識を理解・活用する能力)の向上など多くの学会事業が推進しなければなりません。そして医療者と医療消費者は生老病死に立ち向かうイーブンパートナーとして、理解しうる共通言語と共通認識を醸成したうえで、双方向性のコミュニケーションを実現し、真の信頼関係を構築し、患者の満足度を満たすことが本学会の目的です。

わが国では、財政破綻、少子超高齢化、人口減少社会となる中、社会保障と税の一体改革、医療・介護一体改革、医療包括ケアなど社会の大改革が推し進められています。本学会は分かりやすい言葉で必要な情報を公開し、21世紀における患者・市民中心の医療・介護制度、ひいては社会保障制度を研究・探求してまいります。